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kerrieさんの描く、サトエリの絵から一つ拝借し、

軽くショートストーリーです。

全く、サトエリとのイメージとはかけ離れます、ごめんなさい。

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「天使と吸血鬼」 

 その昔、重い罪を背負い、天に召すことを許されない女がいた。

償いとして、「1000の孤独」の刑を宣告された女は、

背中に白い羽をつけられて、雲の隙間から、再び地上へと突き落とされた。

 1000人の孤独を救い終えたその時に、初めて、心は満ちたり、そして望むべき場所へ還れるという。

ある人は、荒涼な地がどこまでも続く、あてどない闇のような孤独を持ち、

またある人は、深海に手を伸ばすように、どこまでいっても掴めないほどの深い孤独にさいなまれていた。

 たった一つを救う間にも、容赦なく時は流れ

振り返ることもできないまま、数百年という、果てしなく長い月日が過ぎていたが、

未だ自分が還りたいのは、一体どこであるのか思い出せるわけでもなく、悟ることもない。

 もしかすると、私があまりに時間をかけすぎたせいで、天は許すことを忘れてしまったのかもしれない。

   羽を休めるため、高層ビルの先端に腰かけて街を見下ろしながら、

とうとう最後となった、自分を必要とする人が現れるのを待ち続けているうちに、

こみあげる寂しさと悲しみの雫が頬をつたい、落ちていった。

 雫は、誰も気付かないうちに、すぐさま空気中に溶け込んだが、

何故か道行く一人の男だけは、不思議そうな面持ちで顔を上げている。

 女は、その男の表情から、一種凄まじさを感じさせるほど強烈な闇を見いだし、背筋がゾッとなった。

だが同時に、これまで経験したことのない共感が、身体中の血を熱く走らせ、

耳までもが赤く染まるのを感じた。

 ドクドクと駆け巡る血の理由を確かめてみたくなった女は、

人に姿を変え、男の傍まで近づくことにした。

 星は瞬きだしていたが、眠らない街中のネオンにすっぽりと呑み込まれている。

男は、鬱陶しく目を細め、狭い路地へと滑りこんでいった。

飲食店の裏口が並び、華々しい表とはうってかわってあたりを薄く照らしているのは

一つきりの外灯だけである。

 力ない足取りの男が、ゴミ箱の蓋をあけ、何かをあさっていたが、

その手に掴んだ、動く塊にかぶりつく姿を目にした瞬間、思わず

 「あっ!」

声を上げてしまった。

振り向いた顔の、ケチャップを塗りたくったような口元と、金色に光る瞳が

大きなドブネズミを右手に、その場から逃げ出そうとするがよろめく。

 「待って」

追うように駆け寄り、丁度、外灯の下で、互いは顔を突きあわせてしまった。

 すると突然、女は頭の中がパンッ!と破裂したような音をたて、

ものすごい勢いで、自分が遠い記憶に引き戻されていくことを感じた。

男もまた、光が消えた瞳を大きく見開き

 「ど、どうして君がここに・・・・・・」

そう言って、女の腕を掴んだ。

 「私は・・・私は・・・あなたを救うために戻ってきたの」

無意識にこぼれた言葉だったが、女は確信をしていた。

 「あれからずっとずっと、僕は自分がしたことに、後悔をしていた。

僕のエゴが、君をあんな目にあわせたんだから。」

 かつて、恋に堕ちた二人は、お互いが心の底から愛し合っていた。

だが男は、鮮血を得ることだけでしか生きながらえれぬ一族の者であることを

ひた隠しにしていたが、女は知ってしまう。

ついに男は、彼女を自分と同じ人種にすることを選んでしまった。

 それから、異常な喉の渇きと苦しみに耐え切れなくなった女は

首を掻き毟り、月が隠れる夜になると、人を襲うようになった。

最期は、娘の異常に気付いた父親が嘆き、哀れに思い、

その手で、銀の銃弾を彼女の胸に打ったのである。

男は、助けに行ったが、すんでのところで間に合わず、

すでにその姿は灰と化していた。

 「君にしたこと、そして君を失ったことで、僕は本当の辛さを知った。

それから人を襲っていない。だが死ぬこともできずに

何百年たった今も、こうしているんだ。 とても苦しいんだ」

ボロボロと涙を流す彼の手をとり、

 「もう私達、一人じゃないわ。行きましょう、夜明けがくるわ」

 二人は、ビルの屋上にあがり、仄かに白けつつある空を見上げた。

口に出すまでもなく、互いの望みはわかっている。

 「これまでの全ては、今のためにあったのね。とても長かった」

ゆっくりと、朝の太陽が地上に昇りだしてきた。

やがてオレンジの光は、目を眩しくする。その前に。

 「今よ」

 男は大きく口を開き、女の右の首筋に牙を食いこませた。

女は、あの時と同じ、細胞が何者かにとって代わられ、

心臓はやがて止まる瞬間を覚える。

 二人は抱き合ったまま、朝日に焼き尽くされ

あっという間に、一握りの灰となったが

すぐに、風に吹きとばされて、空に消えた。






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